ある、冬の日。昼下がり。
―ねえねえ蓉子。
―何?
―想いを食べちゃいたい、って思う時、ない?
―はあ? 何よ、藪から棒に。
―いやさ。時々、胸が潰れそうになると、こう、想いってやつを取り出して頭から食べてやりたくなるんだ。そんなことを思ったことってない?
―ないわ。
―早っ。冷たいなあよーこちゃんはー。
テーブルにどたっと顔を乗せ、足をぶらぶら動かした。
―……聖。行儀悪いわよ。
―でもさ。そうすると、なんとなく楽になりそうな気がしない?
―さっきの、想いを食べるとかなんとかいうこと?
―そうそう。
蓉子はカップを持ったまま、目線を上にずらす。そして、目を落として笑った。
―無理ね。
―えーそうかなあ。
―当たり前じゃない。食べるってことは、自分の中に取り入れるってことよ。
―……つまりよーこさんは、自分の中に存在することには変わりない、って言いたい。
返事の代わりに、蓉子は笑った。
―敵わないねえ。
聖は、頬杖をついて窓の外を見る。
―ところで、それって、何?
―……さて、なんでしょーね。秘密ー。
外を向いたその瞳が、愛おしそうに、とても愛おしそうに細められた。
ある、冬の日。そんな昼下がり。
―WRITTEN BY ■